(2025/2/16試験的公開開始)
ニューヨーク(880万人)
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ニューヨークといえば、多くの日本人にとっては、マンハッタン島を中心とするいわゆるニューヨーク市を指すが、その周辺都市であるニュージャージー州のニューアーク市・ジャージーシティ市なども含めると、人口2,000万人を有する巨大都市圏である。(日本の首都圏の人口は、1都3県合計で3,500万人)
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ニューヨーク市役所は32.5万人の職員を抱えているが、これはアメリカの市として最大の規模であり、州政府と比べてもカリフォルニア州、テキサス州、そしてニューヨーク州以外のどの州政府よりも職員数が多い。
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ニューヨーク市は5つの行政区で構成されており、各行政区はニューヨーク州の一つのカウンティと範囲が一致する。マンハッタン区はニューヨーク・カウンティ、クイーンズ区はクイーンズ・カウンティ、ブルックリン区はキングス・カウンティ、ブロンクス区はブロンクス・カウンティ、そしてスタテンアイランド区はリッチモンド・カウンティである。
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ニューヨーク市はアメリカの他のほとんどの市よりも市長権限の強い制度を採用しており、公立学校、矯正施設、図書館、公衆安全、娯楽施設、公衆衛生、給水、そして福祉などの事業を担っている。
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ニューヨーク市の上下水道サービスは、ニューヨーク市環境保護局(NYDEP:NY Department of Environment Protection)が担当している。NYDEP自体も巨大な組織であり、上下水道だけでなく、大気汚染を含む環境行政、リクリエーション地域の管理など幅広い行政分野を担っている。
ニューヨーク州の位置図

ニューヨーク市の位置

オンタリオ湖
エリー湖
ニューヨーク水道:概要
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ニューヨーク水道は、同市の 880万人を含む、Ulster、Orange、Putnam、Westchester の各カウンティの住民を含む900 万人以上の人々に、380万㎥/日以上を供給している。
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ニューヨーク水道の水源は大きく2系統あり、1つがCroton系貯水池群、もう1つがCatskill/Delaware系貯水池群である。これらの貯水池群は、大規模かつ長距離の水路やトンネルで相互に接続されており、全体として統合的に運用されている。両系統の取水割合は、Catskill/Delaware系が約91%、Croton系が約 9%である。地下水水源も市域内に若干ある。
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水源は、全体として、19の貯水池、3つの調整可能な湖など5,000km2の流域に広がっている。11,000kmの配水管、トンネル及び水路により、5 つの行政区の家庭及び商業地区に運ばれている。
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創設期の古く小規模のCroton系は1842 年に運転開始しており、12 の貯水池、及び、 Westchester、Putnam 及び Duchess の各カウンティにある3つの調節湖で構成されている。
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もう1つのCatskill/Delaware系貯水池から供給される水は、第1段階では塩素消毒が、第2段階では紫外線消毒が行われている。ろ過は行われていない。
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WestchesterカウンティのMount Pleasant町及びGreenburgh町にある紫外線消毒設備は、757 万 m3/日の能力を有する世界最大の設備であり、合計 11,760 本の大型紫外線ランプを含む 56 の紫外線消毒ユニットで構成されている。紫外線の暴露により、クリプトスポリジウムやジアルジアのような有害性微生物は不活化される。
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Croton系については稼働当初は、水源水質の問題はなかったが、流域開発が進むにつれ、水源水質は悪化していった。健康項目の水質基準に適合しているものの、季節的に色度、臭い及び味について基準違反が頻発することとなり、このため連邦政府環境保護局(USEPA)は、NYDEPに対し、Croton系の水をろ過するように要求するようになった。
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2015年まではろ過は全く行われていなかったが、連邦政府の規制強化もあり、現在は、2系統あるうちの古い方のCroton系の水はろ過施設で処理されている。Croton系へのろ過施設の新設は、2000年のNY市長選挙におけるBloomberg 市長の公約「PlaNYC」の重要な1つともなっていた。
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新しい方のCatskill/Delaware系については、連邦政府から「ろ過免除」の認可を受けた上で、強力な水道水源保全措置をとることで、現状でも、消毒のみ(塩素消毒とオゾン消毒の2段階消毒)で給水されている。
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このためNY水道にとっては、Croton系を含め、上流水源流域の水質保全は生命線ともいうべき重要な業務でなっており、水道水源保全施策を行っている。また、そのための強制措置の権限を有している。
NY水道の2つの水源地域と各貯水池をつなぐ導水路



NY水道:流域保全対策
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ニューヨーク水道は、人口が1,000万人近い大都市の水道でありながら、この水道は本格的なろ過浄水場を持たず、その大部分が市中心部から北に100km以上離れた森林地域から導水され、消毒のみで供給されていることが最大の特徴である。そのため水源地域の流域保全対策として、以下のような多様な施策がとられている。
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市有地の開放
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水源流域の土地の大部分は地域の人の所有であるが、NYDEPも、34,000 acresの貯水池面積、150,000 acresの流域内の土地を所有している。NYDEPの土地所有の基本的な目的は流域保全であるが、市所有地の多くの部分は住民のリクリエーションなどの目的に開放している。
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水質保全に資する用途であれば、農業、林業等に積極的に開放
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流域内地権者への支援制度
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NY市による土地買取の推進
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地域振興のためのインフラ施設規制
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クロトン流域には、州政府の環境保全局New York State Department of Environmental Conservationが、自治体設置の下水道施設MS4:Municipal Separate Storm Sewer Systemを規制している。この規制に基づき、クロトン流域では「第2期雨水管理計画」に適合させなければならない。
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流域内には、114 の公営、民営の各種下水処理施設があるが、NYDEPは州政府の環境施設整備公社EFC:New York State Environmental Facilities Corporationと協力しながら、この施設の改良、更新等のための助成金を出している。
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浄化槽地域に対するNY市下水道の延長接続、地域下水道への切換え促進
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山間地域の集落下水道整備支援
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ハドソン流域西部の山間地域では、必ずしも、中央処理方式のいわゆる下水道は必要ではない。多くの人々は浄化槽に頼っているからである。しかしながら多くの村落では、その個別の浄化槽を管路でつないだり、本格的な下水処理場を建設したりすることも必要である。
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DEPは、ハドソン流域西部の集落下水道整備のために、CWCに対して、120億円($82 million)を交付している。
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*参考【CWC :Catskill Watershed Corporation】
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CWCは、1977年の「NY水道流域保全に関する覚書」から生まれた組織である。この覚書MOAは、NY市、NY州、連邦政府の環境部局、流域内の自治体連合、流域内の全都市の間で結ばれたものである。CWCは非営利の地域開発団体で、NY市から巨額の助成金を受け、ハドソン流域西部の山間地域において、環境保全事業、地域開発事業、普及促進事業などの事業を実施する組織である。
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Arkville市に本部を置き、22人の地域スタッフが在籍し、15人の理事会がある。そのうち12人の理事は流域内の自治体から、残りの3人は、NY州知事の代理、地元の環境団体の代表者、NY市の代理である。
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CWCの事業の目的は、NY市民とその周辺住民900万人の水の水質を守り、同時に、Catskill/Delaware流域の5つのカウンティにある集落を守り、支援することである。
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また、NY州法公衆衛生法に基づき権限を有しているNYDEPは、NY水道の水源水質の現状を保全し、将来の水質悪化を防ぐための強力な規制を実施している。水源地流域内における次の全ての行為がNYDEPの規制を受けることとされている。
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住宅用浄化槽の設置
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中規模の下水処理施設
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下水処理施設
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舗装または不透水性の表面を持つ道路の建設で、河川に隣接するもの
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河川の横断、分岐、パイピング
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河川に隣接する場所での住宅その他の構造物の建設
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既存下水網への接続
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水路・湿地から30m以内、貯水池、ダムから1km以内、15%以上の勾配の傾斜地に係る土地の造成工事
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肥料の貯蔵と使用
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農業に関連する排水
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廃棄物、不用品の処分場
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危険物、石油化学製品、殺虫剤、道路メンテ剤、汚水などの貯蔵と排出
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CWC本部

集落下水道の処理施設

浄化槽

NY下水道:概要
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NY市の下水道もNYDEPがサービスを提供している。
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NYDEPは、市の6割の地域において合流式下水道、4割の地域では分流式下水道となっている。保有する施設は、12,000kmの管渠、95か所のポンプ場、14か所の下水処理場を持ち、その能力は合計500万m3/日である。
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DEPはリサイクルにも力を入れており、下水や食物残渣からエネルギーや栄養分を回収することを通じて、NY市の循環経済を推進している。特に、Newtown Creek下水再生処理場(WWRF:Wastewater Resource Recovery Facilty)では、食物ロスや汚泥を処理し、有機肥料やバイオガスなどを生産している。
NY下水道の処理区域

Newtown Creek下水リサイクル施設
Newtown Creek下水リサイクル施設:
Newtown Creek Wastewater Resource Recovery Facility




NY水道:水道局警察
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NY水道は警察的な組織を持っており、水道水源を守る業務を担当している。その対象は、20近い貯水池、9つのカウンティに広がる5,000km2に及ぶ流域の土地、数百kmに及ぶトンネルと水路、10近いダム、トイレ等複数の処理施設である。NY水道警察は、徒歩、自転車、山岳対応車両、ボート、ヘリコプターなどでパトロールしている。犯罪捜査、緊急対応、警察犬、航空関連の部署がある。
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NY水道の流域規制に対する執行権限は、Catskill 導水路が計画されていた1905年水道法の1906年修正で創設されたNY水道局警察にルーツがある。1908年、導水路工事で影響を受ける地域を守るために指名された。当時はパトロール員と呼ばれていた。本部はKingstonにあり、4つの管轄区に分かれて業務を行っていた。
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Catskill系貯水池や当時のDelaware導水路の工事期間中にも活動を続け、1978年、水道局警察は、警察機能を付加した上で現在の環境局警察となった。
NY水道警察の管轄地域
