(2025/2/16試験的公開開始)
サン・アントニオ(143万人)
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テキサス州にある都市で、南部有数の大都市である。テキサス州西部の商業・金融・工業の中心地で、食品業・航空機・建築材など多種多様な工業が発展している。西部開拓時代の雰囲気をも色濃く残し、テキサス独立戦争の戦跡であるアラモ砦などがあり、年間1000万人以上が訪れる全米有数の観光都市としても発展している。
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ヒスパニック系の人口が多いために、スペイン語が街の案内板・広告など至る所で使われていて、スペイン語話者も多い。
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サン・アントニオ市の人口は143万人、州で2位、全米で7位の大都市である。同市はBexarカウンティに属し、テキサス州の南部に位置している。州都オースチン市からは南に120km、ヒューストン市からは西に320km、メキシコ国境の町ラレド市からは北東に240kmである。
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上下水道関係の業務を担っているのは同市のサン・アントニオ市水道事業団SAWS:San Antonio Water Systemである。この組織は、2023年12月時点で職員数1934人、経営はSAWS理事会が行っている。理事会の構成は理事長1と理事6である。理事長は市長、理事6人は給水区域内の市民から任命される。
テキサス州の位置図

テキサス州Baxarカウンティの位置図

サン・アントニオ水道
【サービス区域】
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SAWSはBexarカウンティと隣接の2つのカウンティの一部に住む200万人にサービスを提供している他、4つの冷却水供給施設も運転している。上下水道管路延長2.2万kmを保有し、上水で56万件、下水で50万件の契約を持っている。
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SAWSの下水道サービス区域は、流域の地形を考慮し、水道区域より若干広い地域になっている。SAWSはこの地域の唯一の下水道事業者であり、軍の基地を含め、郊外の独自下水道システムを持つ事業者の下水処理を、料金をとって行っている。また、処理区域以外の開発地域に対しても、契約に基づきサービスを提供している。
サンアントニオ市水道給水区域図
サンアントニオ市下水道処理区域図


サン・アントニオ水道:水源の多様化(1)
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SAWSは、厳しい旱魃期にも安定的に供給できる体制を整備するため、水源の多様化を図っている。1995年時点では、全て、Edwards地下水層からの取水であったが、今日では、7か所の水源に13の井戸施設を持っている。
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水源多様化のメリットは下記の通りである。
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地域の旱魃期における影響を緩和する
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Edwards地下水層への依存率を60%まで低減する
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湧水や絶滅危惧種の生息環境を保全する
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地域住民への水の安定供給を確保する
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2023年の実績では、給水量の49%の水源がEdwards地下水である。地下水の取水はEAA:Edwards Aquifer Authorityの規制の下に置かれているが、SAWSとしては3.5億m3/年を維持したいと考えている。
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EAAの地下水規制に基づく取水権は、気候変動によって設定される取水削減期間に応じて、0%から44%まで変動する仕組みになっている。SAWSは、このような規制とは別に、さらなる取水制限として、エドワーズ帯水層生物環境保全計画EAHCP: Edwards Aquifer Habitat Conservation Planに基づく自主的な取水削減も行っている。
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この自主的な取水削減は、地下水保全涵養プログラムASR:Aquifer Storage and Recovery Programとして実行されている。このASRとは、Edwards地下水層からの取水量の削減にインセンティブが与えようとするメカニズムである。
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その内容は、Edwards地下水層からの取水権は法律とEAAの規則で規制されているが、雨の多い年には権利量一杯に取水されないが、この取水されなかった水量を将来のために権利量に上乗せするというものである。
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具体的には、権利量と実績取水量の差分は、Bexarカウンティ南部のH2Oaks注入施設で Carrizo地下水層に注入され、その後旱魃期に、Edwards地下水層から揚水して水道として利用されるのである。
サンアントニオ水道の水源別取水割合
サン・アントニオ水道:水源の多様化(2)
①地下水(Edwards地下水層など5か所)
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Edwards地下水層は、大規模な地下水層であり、SAWSの給水量の半分を供給している。この地層は断層が数多くあり、ほとんどが石灰層である。その地形学的特異性のおかげで、地下水の涵養量、生成量、効率的な注入再生メカニズムの点で全米有数の地下水層であるとされている。
②表流水(キャニオン湖・ダンロップ湖)
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キャニオン湖は2006年に開発された表流水水源である。Western Canyon浄水場は、GBRA:Guadalupe-Blanco River Authorityと、Comal、Kendall、Bexarの各カウンティの水道事業者との共同施設で、その中でSAWSは、最低490万m3/年の取水権を確保している。
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ダンロップ湖は、CRWA:Canyon Regional Water Authorityとの協定により実現したものである。SAWSは2023年度末までは、CRWAからダンロップ湖からの水を490万m3/年受水することになっていたが、2024年以降は、CRWAはその水は流域内に戻し、SAWSに対してはCRWAの地下水を代替供給することになっている。
地下水水源の位置

表流水水源の位置

サン・アントニオ水道:水源の多様化(3)
③全米最大の高度処理下水処理水の直接給水方式水道
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1996年、SAWSは全米最大の高度処理下水処理水の直接給水方式水道の建設を決定し、以後20年間の運転を経て、このリサイクル水道施設が、SAWSの水源の多様化と節水努力にとって重要であることを証明した。
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現在、高度処理した下水処理水を、200km以上の管路で、工場用、事業所用、公園用、大学、軍施設、病院など80の顧客に供給している。システムの能力のまだ8割程度しか契約になっていないが、料金が安いという理由から接続したいという顧客は、接続工事町の状態にある。
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SAWSは、この他、CPS Energy社に対しても水力発電用の水を、地下水注入用として供給している。
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高度処理下水処理水水道の概要
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水源 下水道の高度処理水
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方式 直接給水
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給水量・給水量割合 22億m3/年・全給水量の15.4%
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CPS電気ガス会社への給水量 0.4億m3/年
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④H2Oaks注入施設
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H2Oaks注入施設はBexarカウンティ南部にある。この施設は、脱塩水、地下水注入・再取水、Carrizo地下水層関連の3つの施設を、1か所の制御室から運転している。ここには、12か所の取水用井戸、2か所の注入用井戸と、水質検査施設、処理運転区画がある。

高度処理下水処理水の直接給水方式水道

地下水取水・注入の概念図
H2Oaks注入施設



Edwards帯水層保全局
EAA:Edwards Aquifer Authority
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EAAは、この地域の地下水を、統合性、透明性をもって規制するための地域地下水規制機関である。
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1993年に、絶滅危惧種保護法に基づき、地下水の過剰汲み上げに対する連邦政府の規制の枠組みの下で、テキサス州法としてEAA法が制定された。EAA法に基づき、Edwards帯水層を保全するための州政府の1組織としてEAAが設立された。地下水揚水量に上限値を設定することにより、Edwards帯水層で涵養されているComal湧水とSan Marcos湧水に生息する絶滅危惧種を、連邦政府の基準をクリアするのがこの法の目的である。法律制定時のいろいろな問題から、法の施行は1996年1月となった。
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EAAは、EAの生態系を守るための州政府の行政組織である。そのため、
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EAのRegion L計画グループに参加
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地下水保全区域7・9・10・13のメンバー
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テキサス州地下水保全協会のメンバー
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テキサス州節水協会のメンバー
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エドワーズ帯水層の模式図

浸出水浸透エリア:
この地域に雨が降ると、集水されて次の地下水涵養エリアに順次移動していく。
地下水涵養エリア:
この地域では、エドワーズ石灰岩層が地表に露頭しており、ここから地下水が帯水層に入り込む。
被圧地下水エリア:
この地域では、上流側の圧力がかかった状態で、石灰岩 層の空隙に満たされる。圧力が十分であれば自噴し、十分でなければポンプ揚水ということになる。