20250409公開開始
20250425更新
ロサンゼルス(390万人)・サンディエゴ(139万人)
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ロサンゼルス(LA)市は、カリフォルニア州南部に位置し、ニューヨークに次ぐ全米2位の大都市で人口は390万人である。ロサンゼルス・カウンティに属しているが、隣接するオレンジ・カウンティなどとともにLA都市圏を形成しており、都市圏としての人口は1,300万人である。
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サンディエゴ市は、LA市の南180キロメートル、メキシコの国境沿いのカリフォルニア州最南端に位置し、サンディエゴ・カウンティに属している。カリフォルニア州ではロサンゼルスに次いで人口が多く、アメリカ西海岸有数の世界都市である。
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LA都市圏やサンディエゴ都市圏には、都市用水需要に対応できる大規模な河川が近くにはなく、水資源開発のためには、かなりの規模での広域的な解決が必要であった。実際、LA都市圏とサンディエゴ都市圏の水問題は、カリフォルニア州の中央部を占める平原全体(セントラル・バレーCV:Central Valley)を含めて広域解決されることとなった。
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CVは、東西100㎞、南北700㎞、面積は約5万km2に達し、720万人の人口を擁する。北はカスケード山脈、東はシエラネバダ山脈、南はテハチャピ山地、西はコースト山脈とサンフランシスコ湾に囲まれており、サクラメント川とサンホアキン川が流れ、農業地帯になっている。
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CVの北部はサクラメント・バレー、南部はサンホアキン・バレーと呼ばれる。カリフォルニア州のほかの場所と異なり、非常に平らな平原であり、海水面が現在よりも高かった時代には海だったと考えられている。サクラメント・バレーを流れるアメリカン川で見つかった砂金から、1848年から1850年半ばまでカリフォルニア・ゴールドラッシュが起こった。
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CVは、LA地域とは山を隔てているが、その地域を含めて、灌漑、都市用水、環境保全などを含めた総合開発が、連邦政府、州政府、自治体などの連携の下に進められた。
カリフォルニア州とロサンゼルス・カウンティの位置図

サンディエゴ・カウンティの位置図

ロサンゼルス・カウンティと隣接カウンティ

カリフォルニア南部水道事業団:
MWD:Metropolitan Water District of Southern California
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ロサンゼルス市は、ロサンゼルスを含む都市圏と、さらに、南に隣接するサンディエゴ都市圏まで含めた自治体とともにMWDという水道事業者を設立し、全米最大の用水供給事業を行っている。
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MWDは、カリフォルニア州南部の増大する水需要に対処するため、コロラド導水路を建設、運転することを目的として、1928年に設立された。この目的は今日でも同じである。
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MWDは、MetとかMetropolitanとかMWDと略称されており、14市、11自治体の水道、1カウンティの26水道事業者で構成され、13,000 km2の区域内の1,900万人に水道用水を供給している。
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MWDは、水源、浄水施設、配水管網当広範な施設を所有、運転している。3つの巨大なダム湖、6つの小規模な貯水池、1300kmの幹線管路網、厚生団体との400の受水点、16の水力発電施設、5つの浄水場などである。
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MWDは以下の水源を有している。
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州政府導水事業SWPからカリフォルニア導水路を通じて、需要量の平均30%程度を受水
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MWD自身のコロラド導水路を通じて、需要量の20-25%を受水。同導水路は延長約400kmで、水路、トンネル、サイフォン等で構成されている。
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残りは地域内の自己水源である。地下水、雨水貯留水、海水淡水化水、そしてリサイクル水などである。
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MWDは、2023年、コロラド導水を減らし、SWPからの導水を増やすため2つの新事業を承認した。
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州政府導水事業SWPのうち、デルタ地域(サクラメント-サンホアン地域)の取水・導水施設の近代化計画の立案を支援する事業
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このデルタ地域における、水質改善、生物多様性の保全強化、海水面上昇や地震問題などの警鐘などに関する活動を支援する事業
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州政府も、2023年、1949年以来の最小導水量までコロラド導水を減らす措置をとった。これは水利用の効率化と農村部との協力の賜であり、都市住民にも農民にも利益をもたらした。年々ひどくなっていく干ばつに直面し、MWDは、他の州や水道事業者と協力しながら、需要量の低減と水への信頼回復を図っている。
参考【MWD2024: Leadership Today water Tomorrowより】
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1960年代、1970年代には、南部地域の需要増にこたえるため、他の水道事業者や州政府と協力して、MWDは、カリフォルニア州北部からの新たな州政府導水事業SWPを推進してきた。
- SWP事業とコロラド導水事業は、この数十年間、MWDの水源となってきたが、これらの水源は、次第に、砂漠化や温暖化の影響を受けることとなり、地域密着の新たな水源が不可欠となってきた。
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今日、MWDは「Climate Adaptation Master Plan for Water:水道のための気候変動対策計画」という長期計画を通じて、将来の水源確保を目指すこととしている。この計画は、水道の供給、貯留、管理、財政的持続可能性を考慮しながら投資に対し、気候変動等の要因がどのように影響するかを評価したものである。
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持続的で気候温暖化に強い域内水源への巨大な投資、例えば、Pure Water Southern Californiaによる水リサイクル事業は、長距離導水への依存を減らすことができる。
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MWDは、農村部、都市部、先住民などのパートナーとともに、コロラド川への依存量を減少させる方法を研究している。2023年12月には、コロラド導水の水源となっているミード湖の水を、最大20億m3まで節減させる記念すべき節水協定が調印された。
MWDの給水系統

ロサンゼルス水道に関連する遠距離導水路

コロラド導水から受水している水道事業者

ロサンゼルス・カウンティの上下水道
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LAカウンティ内の水道は、その多くを遠距離導水に頼っているが、域内の地下水と山岳部の雨水などを利用した表流水の水源もある。また、下水処理水の再利用も進められている。
【域内地下水】
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LAカウンティ内においては、地下水の割合はかなり多い。地下水源の流域の対部分は裁判所命令などによって規制が行われている。地下水は自然涵養だけでは十分でないため、川やクリークの水を砂質の地域に散水するなどの人工的な涵養も行われている。
【域内表流水】
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ロサンゼルス川
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ロサンゼルス川は、San Fernando地域のBell Creek・Arroyo Calabasas一帯を源とし、80km程流れた後、Burbank市を抜けて南西方向に流れ、最終的にはLong Beachまで南下している。もともとはロサンゼルス川はロサンゼルス市の水源になっていたが、今日では、基本的には、雨水やサンタモニカなどからの都市下水の排水路となってしまっている。
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この川に取水権を持つのはパサデナ市とロサンゼルス市などである。パサデナ市がArroyo Secoに有する水利権は0.7m3/sであるが、この権利は、河川の流況、天候、地下水の涵養状況に応じて大きく変動する。ロサンゼルス市の水利権にはそのような制限はないが、それでも、San Fernando地域のあちらこちらで地下水注入による涵養を実施している。
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San Gabriel川
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San Gabriel川は、San Gabriel山岳地帯を源とし、南西に120km程流れた後、Whittier Narrows からSeal Beach 市まで南下して、太平洋に注いでいる。ロサンゼルス川と違って、San Gabriel川は全域にわたって自然の透水層になっている。雨水、San Gabriel山岳地帯からの流水、都市下水、下水処理場の排水などがそのベースフローとなっているが、そのかなりの量が河床を通じて地下水を自然に涵養している。、また、いくつかの地域では、人工的な地下水注入が行われている。乾燥期には、ダムからの放流もあり、流量制御がかなり行われている。
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【遠距離導水】
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州水資源開発事業SWP(「西部」ページのSWPの項参照)
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SWPは、San Joaquin盆地の灌漑用水を提供するとともに、ロサンゼルス都市圏やサンディエゴ市の都市用水の主たる水源となっており、カリフォルニア州政府水資源局によって運転されている。
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カリフォルニア州はコロラド導水に54億m3/年の取水権を持っている。水の大部分はカリフォルニア州南東部の灌漑用水で都市用水の重要な水源でもある。
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都市用水はコロラド導水路を経て、MWDが、州南部の1,800万人を対象として用水供給事業を行っている。
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ロサンゼルス導水(「西部」ページのロサンゼルス導水の項参照)
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ロサンゼルス導水は、Owens川、Mono湖流域、Sierra山脈南部の東側斜面にある複数の貯水池から導水しているもので、LA市が建設したものである。
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延長350kmの第1水路は1913年に完成したものである。第2水路は1970年に完成したもので、能力は第1水路の50%である。2つの水路でLA市に160万m3/日の水を送水している。
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【下水処理水の再利用】
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下水処理水の再利用水は州政府の厳しい水質基準に基づいて処理され、また、自治体、州政府、連邦政府によって厳格に監視されている。このため再利用水は、灌漑、産業、農業用として安全な水となっている。最近では先進技術により、蒸留水に近い水も生産できるようになり、地下水への注入水としても使われるようになっている。
Los Angeles川

San Gabriel川

ロサンゼルス市水道
LADWP:Los Angeles Department of Water and Power
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LA市内の末端事業は、同市電気水道局LADWP:Los Angeles Department of Water and Powerが経営している。LADWPは、発電能力8,100MW、最大給水量170万m3/日を有し、近隣都市を含め、400万人以上に、電気と水道のサービスを提供している。LADWPは、先ず1902年、水道供給のために設立され、1917年には、市の一部に電気も供給するLADWPとして組織変更された。
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ロサンゼルス導水、域内地下水、MWDからの受水がロサンゼルス市水道の主要な水源である。MWDの水はCVPとSWPを通じて給水されている。Operation NEXT等の再生水供給事業は着々と進んでおり、ロサンゼルス水道の各種水源の中で大きな役割を占めつつある。地下水涵養注入のための雨水集水プロジェクトも推進されつつある。
ロサンゼルス導水事業におけるLADWPの資産

ロサンゼルス・カウンティの下水道
LACSD:Los Angeles County Sanitation Districts
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LACSD:Los Angeles County Sanitation Districtsは、下水を再利用水やエネルギーのような有価物に変えることを主たる目的とした下水道事業者の組合であり、LAカウンティ内の24の下水道事業者から構成されている。そのサービス区域の面積は2,200km2、対象人口は550万人である。
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LACSDは下水道事業を目的として1922年に設立された。現在、LACSDは、220kmの下水管路、49のポンプ場、11の処理施設を運転管理している。これらの施設は、LAカウンティの下水の半分150万m3/日を処理しており、LACSDは全米最大の下水の処理、再利用事業者となっている。
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1950年代には、ごみ処理(収集は除く)、有害廃棄物の処理なども行うようになった。
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LACSDは、グリーンエネルギーと水の再利用における革新者である。67MWの発電をしており、これは、6.7万世帯の電気を賄うことができる。
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再利用水は38万m3/日を生産しているが、これは、地下水涵養、灌漑、農業、産業用水など850か所以上で、再利用されている。これはカリフォルニア南部地域の34万人の飲み水に相当する。
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なお、LAカウンティの公共事業局CSMD:Consolidated Sewer Maintenance District of Los Angeles Countyは、LAカウンティの行政所管区域外(Marina del Reyを除く)の50万以上の集落、37都市(他に2契約都市)等の200万人以上に対する下水道サービスを提供しており、7,500kmの下水管、155のポンプ場、4の下水処理場を持っている。
CSMD:Los Angeles County Sanitation Districts

サンディエゴ市上下水道
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サンディエゴ水道は、1901年、サンディエゴ市は、サンディエゴ水道会社San Diego Water Companyと、南部カリフォルニア水道会社Southern California Mountain Water Companyから水道施設を買収して創設された。
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1913年から1943年の間、市は増大する水需要に対応するため、地域内の雨水を集水する貯水池を8つ増設した。1944年までは、市の水源は、その8つの貯水池といくつかの地下水水源はすべてであったが、市が発展するにつれて、新しい水源が必要なことは明らかであった。1944年、サンディエゴ市やカウンティ内のその他の自治体に対して、コロラド導水からの水を供給する用水供給事業者として、サンディエゴ・カウンティ水道局SDCWA:San Diego County Water Authorityが設立された。
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SDCWAは、同じ年に、南部カリフォルニア地域の用水供給事業者であるMWDに参加した。MWDはコロラド導水施設を運転管理しており、1930年代に設立されている。1947年、MWDのコロラド導水の水は、SDCWAの導水路を経由してサンディエゴ市に供給された。
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カリフォルニアの都市と経済が発展するにつれ、MWDとその他の30自治体は、州政府によるカリフォルニア州北部からの同水事業SWP:State Water Projectに参加することとした。この事業は1960年代に計画されていたもので、全米でも最大規模の事業であった。MWDは、SWP事業の50%の権利を持つ最大の利水者である。1978年、SWPの水がコロラド導水分とブレンドされて、サンディエゴ市に供給された。
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市上下水道局PUDは、市内の住民と事業所に上下水道と再利用水のサービスを提供している。PUDはその水の85-90%を、SWPとコロラド導水から受水しているが、域内の雨水の集水にも努めている。また、下水の再利用水も、サンディエゴ市にとって、通年、域内で利用できる水源となっている。長距離導水への依存を減らすため、市は、北部下水処理場North City及び湾岸南部下水処理場South Bayを建設、運転している。この2つのプラントでは、下水を、灌漑用、工業用、その他非飲料用に使えるレベルまで処理している。
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市内には5つの地下水流域があり、市PUDは地下水を水道に使えないかという検討を進めている。現在、サンディエゴ川関連地下水から12万m3/年を利用しているが、その他の地下水流域についても検討を進めている。
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市PUDは3つの浄水場を持っている。また、水道の需要量を節減するために、2つの下水処理場と、非飲料用の再利用水を給水する管路も保有している。
サンディエゴへの長距離導水事業

サンディエゴ域内の貯水池流域

サンディエゴ・カウンティの上下水道
SDCWA:San Diego County Water Authority
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SDCWAは1944年に設立され、現在、自治体、Water district、軍関係等の水道事業者に適正な料金で供給している。SDCWAは、構成団体34を代表する理事によって運営されている。
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創立以来、SDCWAは、コロラド導水とMWDに全面的に依存していたが、2003年に大きな変化が起きた。農業用水から都市用水への大規模転用が合意され、今や、その水量が半分を占めるようになっている。
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また2015年、全米最大の新しい脱塩プラントが完成し、この水は、SDCWAの歴史的な新しい水源の1つとなった。SDCWAとその構成団体は、この水は飲料用に使える水質であることを認定した。脱塩プラントの名称は、当時、このプラントの建設に貢献した市長のクロード・バッド・ルイス氏の名前を冠した、クロード・バッド・ルイス・カールスバッド脱塩プラント:Claude "Bud" Lewis Carlsbad Desalination Plantと呼ばれている。
サンディエゴにおける大規模農業用水の転用

サンディエゴ:クロード・バッド・ルイス・カールスバッド脱塩プラント

